朝、鏡を見て思う。
「ああ、今日もブサイクだなあ」。
化粧という加工をして、顔をつくらなければ。まだ見れる顔にしなければと、化粧を施す。それはもう作業に近い。私の顔は人工物だ。
化粧をしながら、同時にふと思う。
彼女はこんなこと考えるのだろうか。
彼女とは、私の相方だ。相方って、漫才コンビ?とよく言わるのだけれど、ドルヲタ界隈では、いつも一緒にコンサートに行くペアのことを相方と呼ぶ。転じて、一番仲の良い友達、気恥しい言葉で言い換えると、親友といったところだろうか。私の相方は高校の同級生で、彼女は私のことを関ジャニ∞ヲタクに仕立てあげた人だ。
相方は、ほとんど化粧をしない。眉毛をかいて、パウダーはたいて、リップをする程度だろうか。
旅行などで一緒に泊まる時、私が服を着替えて歯を磨いている間に、準備終わったよ、と言われるものだから、化粧の時間分、私は30分彼女より早く起きる。
下地、ファンデとベースをつくり、コンプレックスのほくろは入念にコンシーラーで存在を抹消する。パウダーをはたいたら、眉毛をかいて、ビューラーで痛いぐらいにまつ毛を上げる。アイベース、アイライン、アイシャドウに、マスカラをして目元を強調したあとは、チークでバランスをとる。最後にリップを塗って、完成。この正味30分弱の作業を経て、自分に認証マークがつくのだ。この製品は品質が証明されましたよ、みたいな。
彼女は化粧という工程を経なくても、自分に認証マークがつけられる。
出会った頃からずっと憧れていた。
何もつくらなくても慕われる彼女を。
つくっている私が出会えないものを、手に入れられないものを、彼女は普通に手にしていく。
激しく、燃えるような嫉妬は、嫉妬を通り越して、執着に近い愛慕となってまとわりついている。
つくらなくても人がくるか、つくらないから人がくるのか。卵が先か、鶏が先か論、みたいにぐるぐる回ることを考えながら、今日も私は顔をつくる。